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KPGC10用 純正ステアリングについて

46/47年型 スカイラインHT・2000GT-R


 私の曖昧な記憶によれば、新車当時のカタログには『革巻きステアリング』装備と言う様な表現だった。昭和49年に3年落ちの中古車を購入した私のGT-Rには純正ステアリングがそのまま取付けられていた。
 だが、グリップを成形する為の金型にダミーのステッチを刻んでウレタンを流し込んだゴム製グリップである。

 400φ外径のステアリングは大きくて細い。しかし、それは昭和46年10月、東京モーターショーの会場に展示されていたワークス・レースカーに装着されていた、紛れも無い純正ステアリングだった。
 近年なら、ダミーステッチ入りのウレタン製ステアリングに対して「革巻きステアリング」と表現すれば『誇大広告』として叩かれニュース紙面を飾るであろうが、当時はまだ寛容だったのであろう。

 当時、現実問題として「革巻きステアリング」を装備していたクルマは存在した、セリカ1600GT、ベレット1600GTRには本革巻きのステアリングが標準装備されていたのである。

 あれから40年余、今もなおGC10型スカイライン2000GT-Rは、ハコスカGT-Rと呼ばれて人気が高い。その魅力は、R380に搭載されたレーシングエンジンのディチューンと言う血統があるからだ。現代の日産のGT-R人気は、過去の2000GT-Rの栄光? カリスマ性が強いからである。


 さて、40年経過し現存するハコスカGT-Rには、当時の400φ純正ステアリングを取付けている車が少ない。旧車専門誌などで見掛ける車やミーティング等に集まった集合写真には、シルバーメタリックのボディカラー、RSワタナベ製ホイール、ダットサン・コンペと言う、何とも個性に乏しいクルマばかりである。
 10台集め並べれば10台ともに同一のスタイルになっている。

 現代のハコスカGT-Rの定番スタイルにケチを付ける訳ではないが、1971年/1972年のレースシーンのイメージが亡霊の様に闇の部分で、オーナーの心理に働き掛けているのかも知れない。
 当時のワークス・エントリー車が何故? 400φサイズの純正ステアリングでレースをしていたのか? そのカラクリを知る人は少ない。また、ダットサン・コンペと命名された競技用? 350φステアリングを使ってレースに参戦していたクルマを見たことが無い。
 昭和45年10月、東京モーターショー会場には、ワークスのレースカーが展示してあった。その運転席に座らせて貰ってステアリングを右へ左へ回してみた。キュッと言う音を立てスリックタイヤが簡単に動いた。
 その時にはステアリング・ギヤボックスがレース用に交換されていることなど全く知らないし、そんな事など考えもしなかった。フロントにもオーバーフェンダーが付けられ、当時としては異様に太いタイヤが装着されているのに対して、400Φの大きくて細いステアリング・ホイールは、サーキットを走る車の仕事場としては不似合いな感じだった。



 400φ純正ステアリングのデザインはシンプルで美しい。私はとても好きである。しかし、経年劣化したステアリングのグリップ部は再生困難だ。特に、ゴム製グリップが鉄芯から分離してクルクル動く状態の痛んだステアリングは再生不能、グリップのゴム表面が夏みかんの地肌の様な凹凸と化し、ブヨブヨになったステアリングは完璧なゴミである事を知って欲しい。価値はゼロに等しくなるが、スポーク部のメッキの状態が綺麗であれば、改造して太くするとか、小径化する素材に使えるので、捨てる事無く温存して貰いたい。
 GC10型スカイライン2000GTのスポーク部のメッキ、そして44/45年のPGC10、46/47年のKPGC10用ステアリングは、スポークの梨地メッキとゴムグリップ表面の綺麗さは命である。

 あるホームページに、ビフォー/アフターとしてボロボロのGT-R用純正ステアリング、再生されたステアリングの画像が掲載されていると、PGCオーナーである昔からのお客様が教えてくれた。
 私は、ホームページ詳細、所在を知らなかったので、聞いた内容のページを検索して見た。「聞くと見るでは大違い」である。詳細は省略するが、ゴミと化したステアリングが、新品同様のパーフェクトに復活できると判断されたら大変だ。大量生産された車の部品は、量産の規模同様の設備を投資しなければ復元は出来ない。
 
 1990年頃、私は、KPGC10用ステアリングを再販しようと考え銀座に有った日産自動車本社の部品課へ再生産の打診をした事がある。その時、日産からの回答は、量産用金型代として700万円及び仕上がりを検討するサンプルの純正ステアリング1本、その金額へプラスしてオーダー数分の加工工賃が必要と言われた。
 その時に100本製造して約1千万円越え、1本10万円の原価で1千万円の回収は不可能と判断し断念するに至った。

 大量生産された部品は再販するにも採算を考えると困難、大量生産された部品を新品同様に復元するにも、再生は不可能である事を断言しておく。勿論、高額投資の覚悟があるなら、その時には不可能を可能にする事も出来るが、純正部品の新品と同一の仕上げには出来上がらない。当時の新品部品は所詮当時の新品なのである


    ★注意★  以下のことを忘れるべからず

中古のステアリングを購入する際には、ゴミと化したステアリングは敬遠せよ。
@ スポークの梨地メッキに、うっすら赤サビが付着していても良いが、明らかに腐食してメッキの剥がれの有るものはパスせよ。
A ゴム製のグリップ再生は不可能。 46/47年GT系部分革巻き、45-47年GT-R用のゴム巻きステアリングに共通する話である。
B 欠品部品のあるステアリングは、可能な限り入手しない。部品取り用の目的ならOK。

 

    GC10系ステアリング ⇒ KPGC10タイプ・ステアリングへ変身させる

 それでは、再生するには、どうすれば良いのだろう。  以下は、私の独断解釈から生れたKPGC10用ステアリングへの再生一例である。

 46/47年のGC10、KGC10用の純正ステアリングは、3時/9時方向の左右スポーク部にゴム成形された『部分革巻き』と呼ばれたステアリングである。GT用はプラスチック製グリップとゴム、GT-X用はウッド製グリップとゴムである。
 GT-R用ステアリング同様に、ゴム製グリップが劣化したものはゴミである。

 ゴミと化した部品でも再生する道はある。しかし、それに投資する価値観の問題であり、熱意の大きさでも有る。再生する際に私は、仕事に見合うコスト・パフォーマンスを提示しており、それに対してお金を投資して貰えるか? 否か? なのだ。
 ボディやパワートレインには高額な投資をしても、ステアリング1本には投資したくないと言うオーナーには無縁の話である。

 以下の画像は、GC10/KGC10用部分革巻きステアリングのゴム・グリップを取除き、樹脂で固めてヤスリ1本でグリップのプロフィールを削り出して作ったステアリングである。
 そのステアリングに対して本革巻き加工を施して製作するKPGC10タイプ・ステアリングである。カタログ記載の文字どおりの「革巻き」にしてしまえば、革で包まれて隠れてしまうグリップの材質が異なっても変形しない頑固な素材であれば全く問題ない。

      部分革巻きと呼ばれる左右のスポークからゴムグリップを取除き成形する

 ココまでのグリップ成形に約1週間、金属加工用ヤスリ1本で削り出し、何度も触感を確認して裏面の凹凸のプロフィールを作る

 今までに、電話で加工の行程を説明を聞いた質問者は、オーナーが自身で左右のスポーク部を成形しステアリングを送って来る約束をしても、誰一人ステアリングを送って来た事が無い。単純に「出来そうなつもりが、実は難しい」見た目ほど簡単に出来るものではない。
 何と言っても、このグリップ成形が命である。このステアリングの仕上がりを左右してしまう。

寒冷地と温暖な土地 北海道で使われた車と九州で使われた車では、経年の歪みが異なる。時として楕円に変形してしまったステアリングが送られて来ることも有る。同じメーカーで作られたステアリングでも、使用環境で全く異なる。自然歪み恐るべしである。


このステアリングを製作するには、
取り合えずベースとなるGT用部分革巻きステアリングを1本
加工代金として 120,000円(消費税別) を準備して欲しい。



       上記成形行程をクリアしてから革巻き加工に取り掛かり、仕上がったステアリング

 45年モデルのPGC10、46/47年モデルのKPGC10のオリジナルステアリングは、ゴム製グリップが必ず劣化する為、遅かれ早かれグリップ表面の劣化を防ぐ為に何らかの対処が必要である。簡単に表現すれば、グリップの上に革巻き加工する必要が生じる。
 PGC専用オリジナル・ステアリングと強がりを言ったところで、最終的に革巻き加工が必要なら、変形しない硬いプラスチック製/木製のグリップに革巻きしても結果は同じである。
 それならば、GT-R用ステアリングと言うプレミア付きの高価な中古品を購入するよりも、ゴミ同然のGT系のステアリングを入手して革巻きする方が賢い選択であると思う。価値観は人それぞれ、どんな選択をして400φのステアリングを入手するか? それはオーナー自身が考えて結論を出せば良いことだ。

 くれぐれも誤解の無いようにして貰いたい。このステアリングを作るには、赤サビがスポーク部に発生していてもOK、しかし、スポークのメッキ表面からメッキ皮膜が剥がれたものでは、ココまでの美しさが再現できない。
 メッキ表面の肌荒れ、シミの様な斑模様が残る。そして、もう一つ重要な事であるが、スポークの赤サビを落とす為にサンドペーパー等で表面の梨地処理を削り落としたステアリングは、メッキ部の再生が不可能である。

 これから中古のステアリングを入手して、このKPGC10タイプのステアリングを作ろうとするなら、可能な限りスポーク部にヘタな細工がされていない新車時からノータッチのステアリングが良い。汚れならクリーニングすれば落ちるが、削り落とされたものではダメなのだ。

July 7, 2012

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