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911 (1965-1973) の雑学・役立つ知識 Part 8

  知れば知るほど摩訶不思議、真実を知りたい「欲求不満に陥る」ナロー911

 1965年から1973年まで9年間の911シリーズをそれぞれ分析すれば、1年1年が全く別物であると考えてみると面白い。912には詳しくないので、ココでは911だけについて触れてみることにする。
 実際にどの年式の911が一番素晴らしいのか? 年式別に分析すると全て一長一短である事が判り、ベストといえる年式が無い。65年から73年までを趣味の目で確認すれば、(メーカーでは年毎に進化していると言う事であるが)、それが趣味性に乏しくなる反面、実用的には進化すると言う矛盾した皮肉な車になって行くのである。どの自動車メーカーも一つの傾向として、乗り難い部分を削り、誰でも乗れる車作りを目指している。

 市販車としてデビューした1965年のソレックスキャブ装備 130psの 911は、1966年半ばにエンジン・スペックをそのままにメンテナンス性の向上の為にウェーバーキャブへと、キャブレーションの変更を図った。
 翌年の1967年には、130psの911に追加する形で、ウェーバーキャブ装備 160ps 911Sがデビューしたのであるが、911と911Sのシャシー・ナンバーが通し番号となっており、911クーペと911Sクーペの具体的な台数台数は公表されてない。タルガボデイを含め合計1900台程度が製造された67モデルは、6桁の数字の後ろに"S"の文字が1字追加された形で表示されただけなので、911が911Sに化けた車も存在するかも知れない。
日本国内では、当時の輸入代理店のミツワ自動車が輸入販売した67年の911Sは、66年911Sとして登録台数が記録された為、67年の911Sと言う表現をしてもミツワでは判らないと言う話であった。私が調べた情報では、6台の911Sだけが国内の新車登録台数と聞いている。しかし、67年の130ps 911を今までに全く見掛けた事が無いので、ある意味では希少価値のあるモデルなのかも知れない。

 1965年当時の130ps 911を知る人の話では、完調のソレックスキャブの130psは、ウェーバーキャブの160psより面白いほどに走ると言う。しかし、エンジン性能を完璧に引き出し調整された車は皆無なので、現実的にその体験を得る事が不可能である。


 実際に走行して体験した印象では私が同乗した車は、130psにしては良く走ると言う印象だったが、その車のエンジンは、個人により日本へ渡って来た67年の911Sタルガに搭載されていた66年のソレックスキャブ仕様と言う素性の不明確なもので、本当に130psスペックなのか? 160psスペックに改造されているのか不明なために、乗り味を含めた印象を断言できるものではなかった。

 65/66前期の 911用ソレックスキャブは、ウェーバーキャブより構造が複雑で、6個が独立した6連キャブを同調させる難しさゆえにウェーバーキャブの整備性と比較にならない気難しさが存在する。また、当時のミツワ自動車は、日本独自のセッティングを考え実践したらしいので、キャブ内部に小改造が施されている様子である。

 一般的にキャブレターの場合、フロート室を満たしたガソリンを、ピストンが上死点/下死点間を往復する空気量に応じたガソリンを霧状にして汲み出し燃焼室に供給するが、911用のソレックスキャブは、ベンデックス製燃料ポンプがフロート室へガソリンを満たし、左バンクのカムシャフトを原動力に使って駆動する機械式燃料ポンプが存在する。強制的にフロート室のガソリンを汲み出し加圧搬送する「インジェクション」機構になっている。その機械式燃料ポンプだけでもアジャスト方法が難しく、理論を正確に熟知しているメカニックが皆無になってしまった為に、完調のソレックスキャブ・エンジンの911が存在しないのである。
 
 その独特のインジェクション機構が130psの911エンジンを面白くしているならば、ノーマルスペックで組まれた67年の911Sエンジンにソレックスキャブを搭載して走れば、もっと面白い911フィーリングになるのではないだろうか? と推察する次第で、私なりの好奇心がある。実現不可能な儚い夢になってしまった現在だからトライしたいコンビネーションである。

 当時のポルシェ911には、65/66年のソレックスキャブ用、66/67年のウェーバーキャブ用に、それぞれ6〜8psUP、10psUPキットと言うスポーツ・オプションがあり、ポール・フレール著「911ストーリー」の日本語版(二玄社刊) の169ページには、僅かにウエーバー用のそのパーツの記述がされている。
 このスポーツ・オプションの場合には、エアクリーナーを取外しパワーを引き出しているが、160psエンジンにソレックスキャブを搭載して、エアクリーナーを取り付けた状態で走行させてみたいし、パワーを計測してみたいものである。
 完調な状態を引き出す事が可能なら、あくまでも911S用ノーマルエンジンでキャブレターだけのフィーリング比較することに楽しみがある。


 私がポルシェと言う車の魅力に引き込まれるキッカケとなったのは昭和53年夏、20代半ばまで乗っていたスカイライン2000GT-R (KPGC10) の仲間が借りて来た67年の911Sと出会った事に始まる。初めて67年911Sを体感した時の印象では、1速、2速、3速とフルスロットルで加速して、「カムに乗って吹け上がる」と表現される状況になり、タコメーターの針が5000rpmを示した時点でアクセルオフしなければ、次の瞬間に針がレッドゾーンに飛び込んでしまう、そんな強烈な吹け上がりが記憶に残っている。当時の国産車でスカイライン2000GT-Rの上を行く性能を持つ車が少なく、公称160psのエンジンが産み出す加速は、1速、2速、3速にシフトアップするに従ってタコメーターの針の動きが遅くなり、加速をするものの吹け上がりが苦しそうになった。ポルシェの加速はギアに関係なく吹け上がると言うカルチャーショックを感じ、同じガソリンで、同じ排気量の車で何故こんなに走りが違うのか? と頭の中で継続する疑問を抱える事になったのである。今の時代ならシビックType"R"より遅い911Sであるが、加速のフィーリングは「2ストロークのバイク」と言う感覚で、他に類を見ないものだった。

 その翌年に私は、67年911のイメージを胸に「10ps性能がアップ」した69年911Sを手に入れて、フルスロットルで加速してみた。67年911Sとの違いは、ウェーバーキャブがメカニカル・インジェクションへ変更され、バルブ径、圧縮比の詳細変更を受けているので、160psが170psになった違いを体感できるものだと信じていた。
 一番ガッカリしたのが、69年911Sではタコメーターの針がレッドゾーンの手前まで目で追えてしまう事であった。ウェーバーキャブの強烈な吹け上がりは味わえなくなって、全域のトルクがUPした為にスパルタンなイメージが和らぎ牙を抜かれてしまった印象が強かった。
 メーターの針の動きに関して言えば、メーター内部のゼンマイばね (ダンパー) のヘタリが大きく左右しており、新品のタコメーターに交換した時にメーターの針が緩慢に動く気がした。正確さは新品に勝るものは無いが、目で見る吹け上がりの良さが消えてしまった。つまり、くたびれたメーターの車に乗ればメーター読みの速さを痛感できると言う話になる。

 ストップウォッチの世界で議論すれば早い車はたくさん存在するが、歴代の911の中では67年の911Sを上回る加速フィーリングを感じさせてくれる車は他には無い、66oストローク・フラット6エンジンの大きな魅力なのである。



 ナロー製造時のポルシェ社は中小企業である。幻の車と言われる901のカタログは部分的に写真を入替え3種類存在した。確認できただけで3種なので実際にはもっと存在したのかも。初期の901カタログには356用の420φ3本スポーク・ステアリングが取り付けられている。
 1969年の911用ドライバーズ・マニュアルには、68年までの420φ4本スポーク・ステアリングへ69年以降のホーンパッドが取付けられていた。

 どこの国も同様かも知れないが、中小企業のギリギリの経営下では、発売前のカタログ等印刷物の写真撮影や原稿作りの際に、部品を間に合わせる事ができず、適当な部品を一時しのぎで流用していた様である。カタログへ注意書きをコメントしておけば何でも有りだ。

 これはカタログ以外に、実際の車にも在庫処分で取り付けられたと思われる箇所が存在する。前モデルを製造した後、部品の余剰在庫があれば、次年度へ流用していた。パーツリストに編集されてた部品番号と違う部品が使われている痕跡が時々見られる。
 私が69年911Sを購入して数年経過した頃、夜間、街路灯の少ない暗い道路でフルスロットルで加速するとチャージランプがぼんやりと淡く赤く点灯する現象を見つけた。オルタネーターのトラブルかと思って、地元の電装業者でオーバーホールしたが治らず、ミツワ自動車へオーバーホールを依頼した事がある。
 私の車は69モデルなのでドライバーズ・マニュアルやワークショップマニュアルには、1969年から770W出力オルタネーター装備と記されている。しかし、ミツワのフロントマンが、「69年は490Wの車が多いですよ」と言っていた。オルタネータの出力が小さければ、加速時の負荷が小さく「まあ良いか」と納得して現在に至っている。

 部品の在庫をさばく為に新車に取付けてもパーツリストには記載なく、違うナンバーが表記されている事も多々有る。その当時のディーラーサイドだけに告知してあれば問題ない事で、一般ユーザーには未公開情報なのである。

  ひとくちに「ナロー911/912」と表現されてしまうけど・・・。

 誰が表現し始めたモノか分らないがナローポルシェは日本国内だけの呼称である。それを知らない日本人が海外でムリヤリ広め、運が良ければ通じる事もある。

 Yahooオークション等で出品されている部品に、「ナロー用」とか、「ナローから取外しました」とか、訳の分らない出品が多い。

 911/912は、ボディ形状から分類すると 「65年から68年のショートホイールベース」、「69年から73年のロングホイールベース」である。内外装の特徴で大別すれば「65年から67年」、「68年」、「69年から71年」、「72年/73年」に分けられるが、それだけで分類できない箇所がオーバーラップしており、細部は1年毎に部品が変更されている場合も多い。下調べなしに「目前の部品に飛び付いて購入したら全く使えない部品だった」と後の祭り状態も多々見掛ける。シャシーナンバーでモデル細部の特徴を詳しく調べなければ、ナロー911/912の部品で「使える」「使えない」の判断すら出来ない場合も多い。

 部品番号から分類して、基本的に65年から69年は「901ナンバーの11桁」、70年以降が「911から始まる11桁」で大別されるが、70年以降の車にも901品番の部品は多用されているので難しい。
 356から流用されて使用された部品も多く、パーツナンバーは356時代から変更されていない「644品番」「695品番」の部品もある。

 私の独断解釈であるが、オークションに出品される中古部品は、出品者の『不要になったゴミだ』と考える。処分に困る為に誰かにバトンタッチさせ『換金できたら丸儲け』と理解する事にしている。返品されて困るので「ノークレーム」「ノーリターン」と表現し逃げを作る。本当に重要な部品なら手放す事はしない筈だ。それを落札して年式違いの使用不可能な部品だったら悲惨な結末になる。すぐに転売出品する人も居るので、丸損する人は居ないと思うが、捨てる神あれば、拾う神ありである。

 オークションの出品者がナロー911/912に詳しい人なら問題は無い。入札者がナロー911/912に詳しいなら「お宝」に巡り合えるチャンスが多くなる。どちらも詳しくない時には入札した人間の自己責任なので良いのであるが、失敗しなければ成長しないと思えば、それなりに価値があるのかも知れない。
 いずれにしても、オークションで落札し取引する人の多くは、メールでの連絡しか好まない人が多い様である。私の知人は、出品した商品に質問された時に返事するのが面倒なので、深い付き合いを避けると言う。個人ではそうかもしれない。また、直接取引きを好んでお宝発掘を狙って来る人もあるので、イチイチ返事するのが嫌いだと言う人も居る。この辺の事情は人それぞれであるが、問い合わせる人のルールとマナー次第と言った所か。

  オークションの場合には、各個人が所有するレア物もあれば、個人的に勝手な思い込みでレア物と表記された物もある。年式違いの部品と知らずに落札すべく、せっせと入札する光景も良く見掛ける。価値観の基準は判断できないし、目的も推察できないので、分っていても口出ししないのがルールであるし、余計なお節介は禁物である。

  ナロー911を所有すれば、朱色の 「七宝焼きフードクレスト」 が気になる様で!!

 ブームが去ってあまり騒ぐ事をしなくなったが、4〜5年前まで当時物の七宝焼きのフードクレストの売買がホットであった。eBayiに出品された当時物・七宝焼きフードクレストの極上モノが$600.00近い金額で落札されたり、国内でも8万円前後の金額で取引されていた。それなりに価値が有る事は認めるとして、いささか過熱し過ぎたのかも知れない。

 1970年代の半ばにポルシェ社は、それまでの七宝焼きフードクレストを廃止して、ガラス質の朱色からクリアー・レッドの配色にして製造方法を変更してしまった。通常の部品の場合には、材質の変更及び、製造方法の変更がされた折に部品番号を変更するのであるが、推測するにエンブレムと言う装飾部品であったことから、そのままの部品番号で新調した物と思われる。
 メーカーサイドには特別な拘りは存在しないので、新旧の部品に対し特別な取り扱い区別もせず、古い部品を率先して出荷し新しい部品を在庫する形をとり、七宝焼きフードクレストはメーカーサイドの在庫から消えてしまう事になった。

 七宝焼きフードクレストは、@ベースとなる軽合金板をプレスでクレストの形に打ち抜く。Aそのベースへ黒と朱のガラス質の粉末を配色して、約800℃の炉へ入れて焼く。Bその後に金色のメッキ処理をして2本のピンを接着する。と言う工程で製造される。
 打ち抜き工程で塑性変形した金属板へ高温の熱を加えれば、金属板には熱変形の歪が生じる事になる。炉から取り出して変形した金属板の歪みを取り除き、設計時のデザイン曲面原形まで修正を加える事は難しく、修正工程の途中で黒と朱色のガラス質にヒビ割れが発生してしまうと不良品になる。
 当時、西ドイツで製造していた工程が詳しく分らないが、製品化率はかなり低いと推測する。

 部品メーカーでは、製造時のロスを減らし成品率を増やしたい訳で、フードクレスト製造における製品変更は苦肉の策だったと思われるが、この時に複数の製造メーカーによって製造された形跡もある。
 詳細は不明であるが、フードクレストの変更は、1976年に924、その後デビューした928と車種拡大による大量生産とコストダウンとの絡みだったのでは? と考える。

 30年〜40年経過した現存部品の絶対数が数少ない理由は、トランクフードを閉じる時にフードクレストを押さえて閉じる人が多く変形させたり、軽合金とガラス質の熱膨張率が違う為、金属表面からガラス質が剥がれ落ち見苦しくなって交換されてしまった事も考えられる。また、新旧の部品については、使用過程で経年劣化した旧部品より新しい部品の方が見栄えが良かったりする事から、「新品」に取り替えてしまう事も多々有った筈である。

 1985年頃だったと記憶するが、当時 Stoddard Imported Cars Inc. で取り扱っていたレプリカと称されたフードクレストは、七宝焼きの純正部品だった気がする。ポルシェ社が同じ部品番号のまま製品を変更してしまった為に、区別する為にレプリカとしたのだろう。

 当時の純正部品以外で、現在販売されている朱色のフードクレストは、全て七宝焼きタイプのレプリカで、七宝焼きの技法を用いて製造された物は存在しない。Yahooオークション他で見掛ける「七宝焼きフードクレスト」とタイトル付けされた出品は、「七宝焼き」と表示すれば、製造方法が異なる為に確実な 「偽装表示」 にあたる。
 現在入手できるレプリカは、黒、朱色共に樹脂材料を盛って固められたものであり、炉に入れ焼かれた製品ではない。ガラス質なら簡単にキズ付かないが、レプリカは黒も朱色の部分が簡単にキズが付いてしまう。

 前述の七宝焼きの工程でリビルトされたフードクレストは存在する。オーストラリアの七宝焼きの業者が、世界各国の自動車用エンブレム類を再生販売しているので興味ある人は、ネット検索してみると良い。 

一部変更 June 29, 2013
Oct. 25, 2010


911 (1965-1973) の雑学・役立つ知識 Part 7

  ナロー911に見る趣味性と価値観

 911は空冷から最新の水冷ヘッドを装備した996シリーズまでの30数年間で、巷間言われてきたのが「最新のモデルが最良のポルシェである」との表現である。確かに走行データや安全性、居住性を含めた性能を追及する傍らで、初心者がドライブしても性能発揮出来る車作りを目指した為に、356から初期型911に溢れていた趣味性が失われ60年代の車と現在のプロダクション・モデルを比較すると大変魅力に乏しい道を辿った車となってしまったのである。
 そして、この話の趣旨はナロー911にダイレクトで接する事が出来ないオーナーに対して力説した所で納得・同意すら得られず理解すら出来ないだろう。今自分が所有するポルシェ911がスポーツカーだと思い込む事も「ひとつの幸せ」の選択肢であるから、その気持ちは今のまま大切にしてもらいたいと思う。
 毎年9月に発表されるニューモデルは、「何処を改良したものか」ユーザーサイドには殆ど悟られない改良をして世に出て来る。前年比の性能から更に進化しているのであるが、それは、あたかも会社組織を企業会計の収支決算から判断する見方に似ており、グラフの右肩上がりでなければならない状況と同様である。
 近年、世界中の車がポルシェの性能と肩を並べて引けを取らない車になっており、もっとファン・トゥ・ドライブの車も生まれている近頃ではスポーツカーとしての魅力が薄れてきた事実は否定出来ない。
 一般的ステータスを求めるブランド志向のユーザーサイドから見たとき、ポルシェのエンブレムはまだ高級スポーツカーを代表するものであるらしいが、ナロー911のオーナーやナローを体験した他の911オーナーの中には、90年代では964カレラRS、GT2/3系等だけをスポーツカーとして認め、それ以外のプロダクション・モデル964/993/996はスポーツカーでは無いと言い切る人も多い。

 30数年に亙る911シリーズのプロダクション・カーとしてポルシェ社が世の中に送り出した歴代モデルは、それぞれの節目には特に目立つ車作りの特徴として「中小企業のメーカーらしい」跡が見受けられるのである。それらは車を製造すると言うよりも趣味的感覚に溢れる車作りを形にしたと表現出来そうな処理の仕方が多分にあり、アットホームと言う言葉で片付けられてしまいがちではあるが手作り色の強い物である。
 その反面では、限定モデルや性能面に惚れ新車購入したオーナーにとって、翌年のモデル・デビューを見て騙されたと感じ取れる様な売り方をして来たのである。
 例えば、前者の場合は356Cのオプションであったフォグランプ・ヘラー128がその代表格で、1965年の911のデビューから1972年までのフロント・バンパー下部に鎮座し、定番扱いされるくらいお馴染みの顔である。しかし、パーツリストから検索すれば、1969年以後のモデルには実車と違って角張った樽形のフォグランプの部品番号が掲載されており、楕円のヘラー128は装備されていなかった事になっている。
 また、1968年までの911は490Wオルタネーターが装備され、翌1969年から熱線リヤ・ウィンドーの装備と共に770Wオルタネーターに変更されたことになっている。しかし、私の1969年911Sにはモトローラ製が、お客様の69年911Sにはボッシュ製の490Wオルタネーターが新車時から使用されていた。どちらの部品も、過剰在庫の在庫調整の為に取り付けられたのではないかと解釈している。
 後者の代表例は、レース活動に必要性からカレラRSを登場させた1973年は、ホモロゲーション用の限定生産のはずであったのだが、翌74年には性能が全く同じエンジンを積んだ74カレラを発売したのである。この車は限定では無かったので注文すれば誰でも購入出来た車である。対米輸出の関係で安全面を配慮したボディ・スタイル変更から5マイルバンパーを採用することになった。そのイメージ・チェンジ感が強くて前年モデルを所有している人は型落ち意識と想像以上のスタイル変化に73カレラRSから74カレラ・ルックに変更してしまったオーナーもかなり存在し、その事実例はかなりの台数に上るのではないかと想像している。

 内部事情は知らないが、年間の生産台数を予想して各部品を部品供給メーカーへオーダーしなければならない部品担当者と走行実験の結果やカスタマー担当の意見、当時であればレース部門との絡みなど、複雑な要求から設計変更する設計担当者との連携プレーにアンバランスを生じた時、過剰在庫等が生じてしまい、翌年のニューモデルにも延長使用された部品がかなり存在したのではなかろうか。
 また、911の初期段階よりレース・フィールドからフィード・バックされた性能を売り物としている面が強く、レースのホモロゲーション対応とマスキー法を発端とした公害対策から排気量アップの一路を辿ることになってしまった911が、製造年度別の各モデルの節目ではオーバー・クォリティとも言える過剰な投資をしており( 詳細は後述 ) 異常なほどにクォリティの確認をしていたものと解釈しても間違いなさそうなのである。それはある意味において石橋を叩きながら渡る慎重な手法でもあり最善策だと思える。しかし、それが確実にオーバー・クォリティと判断した翌年には、あっさりと品質を落とし生産ラインへ載せているのも大きな特徴で、それに関しては補修部品の単価が物語っていたのである。このあたりの事情は「中古車を購入するしか方法の無い」オーナーにとっては面倒な話で、自分が購入した又は、購入したいと考えている年式に使われている部品を調べれば知るほどに、誠に甲乙の付け難い魅力と要素を含んでいるのかもしれない。

 ここではビッグ・バンパー以後のモデルは興味の対象外なので、ナロー911に関して前述のオーバー・クォリティの具体例を紹介したい。
比較例@
 ソレックス・キャブレター装備のフラット6で始まった1965モデル911は、翌66年にウエーバー・キャブレターに変更される。この65年/一部66年モデルのソレックスは、それまでの356に使用されていたソレックス40PIIをトリプルチョーク化したものではなく、その当時としては画期的なセミ・インシジェクション的手法(実際のシステムは理論を理解し難く、ガソリンを負圧で吸い出す様なシステムに見えないので、そう表現することにしている。)を採用していたのである。シングル・キャブを6個並べたソレックス・キャブに関して詳しい内情まで判らないが、ウエーバー・トリプルチョークと比較して高価であったに違いない。この2年間のモデルと比べた時には、キャブレター及びエンジンの安定性から見てウェーバー・キャブが良いに決まっているが、投資金額的にソレックス・モデルの方がより高額な原価になっていたはずである。

比較例A
 サーキット・フィールドからフィードバックされたメカニカル・インジェクションを採用する事でキャブレーションを変更した1969モデル911E/Sは、その翌年の70年モデル2.2リッター用と比較視すると、書籍・雑誌等の媒体ではその主な外観上の違いがコールドスタート・ソレノイド・システムの省略と表現されているが、内部構造的にはソレノイド・スイッチに関連したの多くの主要部品が取り替えられ別物と化している。
 また、911Sの場合にはエア・ファンネル径が2リッター時代46φ、2.2リッター時代42φとなり、2.2リッターではトルク重視の設計の為スロットル・バタフライまで変更されたのである。その部品単価を比較すると2リッター時代の部品は、2.2リッター用部品の2倍であった。ハッキリとした材質の成分チェックをしていないが、試作的に作った2リッター時代の部品には2.2時代よりマグネシウムの含有量などが多くなっている可能性もあり、より軽量化に徹している事も考えられる。
 ポルシェの場合はホンダ車の部品ほど激しくないが、1年毎に詳細が見直され変更を受ける部品が多くあり、年毎に微妙な違いが見られる。また、911でも一部の車には全く同じ金型を使用しながら軽合金からプラスチックに材質を変更し軽量化を図った特殊な部品もある。

 上記の2例がキャブレーションから見た違いと投資金額的考察であるが、毎年の様に細部の変更が見られる9年間のナロー911は、中古車で購入した自分の車が最高のモデルとして評価し、自己暗示に掛ける必要がある。それをせずに細部に亙る比較をし始めてしまったら満足出来る到達点が無く、自分の理想とするものをオリジナル・スペックで追求する事が不可能となってしまう。
 それだけに中途半端でいい加減なところがポルシェらしさで、進歩する反面で退化する所あり、ここを採ればそこがダメと言うくらいに満足度から見て満足することが難しい車であると言えると思う。
 

March 20, 2000


March 20, 2000更新6

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