プロダクション・データ


クラシック・ポルシェの場合、メーカーでは製造ラインで組立てられた際の作業指示が保管され、その記録が残されている。
下記は、過去25年余に亘って調べたプロダクション・データの一部抜粋である。ほとんどのデータは、当時のオーナーへ渡した。

この情報を知ったキッカケは、バブル期に日本人から、コレクターカーと呼ばれた904、906、908などのレーシングカーや
一般の市販車である356、911等も同様のデータを、特殊なルートに依頼をすれば調べる事が出来ると聞いたからである。
妥協すれば論外だが、一部のオーナー諸氏は、中古車購入の際に紛い物を掴まされたくないと言う気持ちが理解出来る。

実際、そのデータを基に付加価値を主張する業者も存在する。模造品や贋作を制作した業者もいたと聞いた。
正当な利用目的で確認する事が前提で、当時私が依頼したルートでは、レース部門の責任者から返事が届いたが、
80年代末に964の開発で多忙になった折に Porsche Cars North America へ専門の部門を開設し移管された。

「Certificate of Authenticity」 を添付された中古車は、高付加価値のプレミア価格で取引されていると言う。

新車時の製造データが有ると、不幸にしてエンジンやトランス・ミッションを壊し、再生車と化し生き残る車が可哀想な気がしない訳でも無い。
新車ラインで組まれた部品から載せ換えられた時、再び復元・復活する事は出来ないが、過去の所有者による取扱いミスなどによる末路だ。

万一、ダメージを負って破損したE/GケースやT/Mに刻印された E/G番号、T/M番号のケースは温存しておくべきである。壊れても温存すれば役に立つ、廃棄したら、その時点で再生車としての日陰の道を辿ってしまい、もし売却や譲渡する際の価値的な評価が低くなってしまうだろう。

中古車市場で表現される「エンジン・マッチング」と言う言葉は、国産車同様、同じ年に製造されたエンジンが載ってるだけで、正確にはポルシェ社から出荷されたオリジナルの心臓が積載されているという保証ではない。これに関して、騙されて掴まされたという話しを時々耳にする。

近年、1973モデル 911 Carrer RSは、プロダクション・データがしっかりした素性が確認できる車であれば、英国のオークションで1億円と言う高値で落札される車も有ると聞いた。国内に現存するクルマでは、海外からのバイヤーへ4000万円以上での取引価格になると聞いている。
もちろん、他の911でも、かなり高騰しており、キャブなどのオリジナル度が高い車が要求される事になる。
90年代半ばまで輸入元だったミツワ自動車が国内へ輸入登録した車は、1965年 911が5台、1967年 911Sが6台、1969年 911Sが26台など、近年の日本市場と比べれば、ホンの一握りの車しか販売されて居なかったことになる。

1965年 911は、ソレックスキャブがマスト・アイテム
である。しかし、米国内ではメンテナンスの難しいキャブを捨ててウエーバーキャブへ換装されてしまった車しか存在しないのが寂しい限りである。当然、価値的にも評価もソレックスキャブが必要である事は言うまでもない。
ディーラー登録された5台の内、3台まで所在を確認出来ているが、1台はボディの腐食が激しく、エンジンも最悪な状況。1台は、近年西日本へ行ってしまったらしいが、やらなくても良い所まで余計な手を入れてしまった為に、パッと見は良い状態であるが、とても残念な車と化している。
もう1台は、ルーフと右フェンダーは新車時の塗装を残して維持されていたが、E/Gが年式違いの66前期のソレックスキャブ用が積まれており、米国西海岸より輸入された素性不明のE/Gを搭載、実用状態で走行出来るが使用されている個々の部品は全く分らない。



但し、この65年 901/01エンジンのオリジナル・クランクケースは、当方にて保存してあり、その気になればいつでもプロダクション・データ通りの1965モデルへの復活が可能である。現オーナーは、その点に関して無頓着なので、譲渡売却する時になったら後悔する事だろう。
投機目的、利益優先の考えなら、その車とクランクケースを元の状態に戻せば、1000万円以上の利益が得られるかも知れない現実もあるが、ソレックスキャブを維持管理出来るメカニックが皆無なので、ドイツへ戻すのが幸せなのかも知れない。
経年劣化は否めないが、殆ど弄られて無い為オリジナル度は高く、英国のオークションへ出品された時は1億円近い金額が夢でないかも。

 
年式モデル 車体番号 エンジン番号 T/M番号 車体色 内装 オプション 納車先
1951 356 Coupe 10665 201** 不明 Adriatic Blue グレー 不明 Frankfurt
1964 356 Cabriolet 160248 7130** 772**-741/2C Light Ivory 赤・本革 不明
1965 911
Coupe
302154 9024**-901/01 不明 Slate gray
6401
黒ビニール
B/P2
Japan
Right Hand Drive
1966 912
Right-Hand Drive
302350 7456** 2283**-902/1 Golf Blue 黒ビニール 4点有 3/3/66 England
1966 912 352352 8824** 2275**-902/1 Irish Green 黒ビニール 9点有 2/14/66 Germany
1967 911S Coupe 305138S 9600** 1030** Polo Red 黒ビニール 2点有 7/21/66
1967 911S Coupe 305441S 9600** 1030**-901 Polo Red 黒ビニール 3点有 08/1966
Switzerland
1967 911S Coupe 305841S 9604** 1034** Signal Red 黒ビニール 8点有
1967 911S Coupe 306655S 960641 103697-901/02 Polo Red 黒ビニール 11/66 Race Dept.
1967 911S Coupe 306656S 960704 103696-901/02 Polo Red 黒ビニール 11/66 Race Dept.
1967 911S Coupe 306657S 960688 103695-901/02 Polo Red 黒ビニール 11/66 Race Dept.
1967 911S Coupe 307253S 9611**-901/02 1041**-901/02 Black-6609B 黒・本革 9点有
1967 911S Coupe 307259S 9610** 1040** Silver Metallic 黒ビニ+B/C 6点有
1969 911S Coupe 119300143 639****-901/10 719****-901/07 Light Ivory 黒ビニール
2点有
1969 911S Coupe 1193005** 6390880-901/10 7193585-901/13 Light Ivory 黒ビニ+A/P1 2点有 7/69 Japan
1970 911T Coupe 9110102160 61095** 不明 Irish Green Russett・ビ 5点有
1970 911S Coupe 9110301529 63021** 不明 Light Ivory 黒ビニール 日本仕様 6/70 Japan
1971 911S Coupe 9111300336 63105** 不明 Burgundy Red 黒ビニール 4点有 11/21/1970
1973 911 Carrera RS 9113600586 66306** 78305** Light Yellow 黒ビニール M472 2/73 Italy
1973 911 Carrera RS 9113601138 66311** 78311** GP white/Red 黒ビニール M472 4/73 Austria
1974 911 Carrera2.7 9114600262 66401** 不明 Mexico Blue 黒ビニ+BW 4点有

このデータは、差支えない範囲で、一部 「 * 印」にて伏字としました。また、オプション装備は詳細を省略。
1973Carrera RSのM472は、1324台製造されたツーリングである。


これが PORSCHE KG が製造した証明の誕生記録である。

*** Certificate of Authenticity ***
これを和訳すれば 「真正の証明書」 と言う事になる。 
 

この1969モデルの911Sは、90年代初めのオーナーに頼まれ、細部まで色々と手を加えた車である。
確か昭和46年登録だったので、ディーラー車の売れ残り登録なのでは? と考えて色々と調べた。
しかし、三和自動車の販売記録リストに載っておらず、新車に近い中古並行車だと言う事が判明した。
この車は、現在どこに生息するのか? 不明であるが、私の所へ持ち込まれた時にはかなり荒れていた。
現在も日本のどこかに存在、コンディションはどんなものなのか? 20数年ぶりに見てみたい気もする。



     ポルシェ クラシックテクニカルサーティフィケート

 近年、ポルシェジャパンのポルシェ クラシックパートナーで「ポルシェ クラシックテクニカルサーティフィケート」と言うサービスが始まった。

 価格は、55,000円(消費税込み)と安価ではないのだが、このサービスが始まった頃には、シャシー#、エンジン#、トランスミッション#、などを告知していたらしい。
 しかし、中古車を購入して日の浅いオーナーが、このサービスを利用してトラブルになったと聞いた。

 それは、中古車業者から「フルオリジナル」と言うセールストークを信用し、車を購入した車だったと言う。それが、ドイツから届いたデータと現実の車に積まれていたトランスミッションの番号が異なったと言う事によって「騙された」と憤慨したと言うことだ。

 私の経験によれば、当時のポルシェ本社での記録の中に、エンジン番号は確実に記録してあるが、トランスミッションの番号には、曖昧な記録しか残っていないと言う事実がある。
 私が調べた上記プロダクションデータ一覧の中には、トランスミッション番号が「不明」と表記した車の多い事に気付くであろう。

 「Certificate of Authenticity」が送付されて来た中には記憶が無いが、1990年より前の「Customer Racing Service」より送られて来たFaxの時代には、当時の責任者Jurgen Barth氏のサインと共に「Gearbox Number can no longer be traced back」と記入されていた事がしばしは有り、その事を考えると、組立作業指示書に従って組み上げても、トランスミッションに関してはギヤボックスの型式だけ間違えずに組めば番号まで気にしなかったのでは? と推測する。

 この上記の1件以来、ポルシェ クラシックでこのサービスを受けても、現車両に積まれているエンジン#、トランスミッション#に関して、新車誕生時の番号と合っていれば「○」、積み替えられているのなら「×」と言う表現に変えたらしい。それは、数字の羅列を気にしてしまう、気になってしまう人間の性分かも知れない。
 私的には、釈然としない事なのであるが・・・。

 残念な事に、当方では既に、このプロダクションデータを調べるサービスを辞めてしまったので、この項目を読んで下さったオーナー諸氏の力になる事が不可能である。

Aug. 11, 2014
一部修正 Nov. 07,2020
Jan. 04, 2023


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